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BOOK REVIEW vol.12

今月の本 vol.12:静かに、だけどはっきり好きなことを伝える、

GINZA Issue 252』(マガジンハウス)

ファッション誌の『GINZA』が2011年以来、7年ぶりに大きなリニューアルをした。心地いい風が吹き抜けていくような、透明度の高いさわやかなモード誌に生まれ変わった。

2011年に中島敏子さんが編集長に就く以前から編集部にいた河田紗弥さんが新編集長となり、中島さんのカルチャー誌の方法論を経由したファッション誌として再スタート。新しいアートディレクターは米山菜津子さん。2011年、中島さんと共にアートディレクターとして『GINZA』をリニューアルし、女性ファッション誌に新しい展開を見せた平林奈緒美さんの元で、デザイナーとして『GINZA』に関わってきた方だ。

表紙の手描きロゴは写真の隅に残して、手描きの中に置かれていたタイポグラフィのみを雑誌タイトルロゴとして使い、ニュアンス、ノイズを配したストレートでシンプルな表紙になっている。細かな特集内容や有名人などの名前も掲載せず、写真とコピーのみ。

リニューアル第一号の特集タイトルは「OK, Ladies!」。読者に呼びかけると同時に、自分たちをレディと呼ぶのだと宣言する、滑舌のいい声が聞こえてきそうな文字がドンと置かれる。「ファッションの持つ、ささやかだけれどたしかな楽しみ」を何より伝えたい、「『こういうのを私たちはいいと思っているのだけれども、よければ一緒にいかがですか?』と、読者に話しかけ続けたい。」と河田新編集長は語っているが、それはどういうことなのか。リニューアルに際してメディアに配られたリリースにはこんな3つのポイントが挙げられていた。

1. Mode For Beautiful.
「このワンピースを着たらかわいくなれるだろうな」、「今季のあのブランドのジャケット、こうスタイリングすると素敵」……都会に暮らし、モードに対する健康的な関心がある女性たちの心に、ポジティブなさざ波が立つようなファッション特集をお届けします。洋服だけでなく、ヘアメイクや言動もTPOに合わせて上品に振る舞える、美しくチャーミングな女性が新生GINZAのイメージです。

2. Celebrate Everyday.
春の気配を感じて軽快なアウターで外に出る喜び、お気に入りのシャツでうなぎを食べに行く夏の夕暮れ、ファッションを楽しむことは、季節を楽しむこと。都会で暮らす忙しい私たちの毎日に奥行きを出すのに、誰もが享受できるファクターとして四季を大切にします。リニューアル第一弾の6月号は『初夏の足音が聴こえる』をテーマに一冊、作りました。

3. Door To Intelligence.
かっこいい先輩たちから物事の本質を教えてもらいます。ソニア パークさんからはスマートショッパーになる審美眼を、平松洋子さんからは日々の料理のエッセンスを。さらに歌舞伎、落語、クラシック……いつかは触れるんだろうなと思いながら気づけば通り過ぎてきた古典の教養や季節の花のことも。知らないことは恥ずかしい事じゃない、そんな気持ちで、知的好奇心を刺激する扉を明るく開きます。

特集タイトルの「OK, Ladies!」は、30Pのメインファッションストーリーのタイトルでもあり、レストランで「OK, Ladies!」とウェイターに声をかけられ、レディ扱いされたことへの気恥ずかしさとともに自分もレディのひとりであることを自覚し、ワクワクするというストーリーになっている。ガール以上レディ未満だった自分が、レディとしてモードを楽しむようになっていくことが今回の『GINZA』の女性像。冒頭にステートメントを載せるのではなく、ファッション誌としてファッションストーリーでそれを提出してきた感覚に、控えめながらも強い意志を感じた。

「洋服だけでなく、ヘアメイクや言動もTPOに合わせて上品に振る舞える、美しくチャーミングな女性が新生GINZAのイメージです」や「かっこいい先輩たちから物事の本質を教えてもらいます」も、まさに知的で社会性のある大人な女性への成長を目指していることの意味だろう。リニューアル前、最後の号の特集が“WHAT IS INTELLIGENCE 「知的な服」ってなんだろう”だったことを思えば、知的であることというGINZA的女性像は引き継いでいる。

ファッションディレクターには、白山春久さんと井伊百合子さんが起用されている。これまでのGINZAでも記憶に残る名スタイリング、名ストーリーをつくってきた二人だ。白山さんらしさが詰まった冒頭のファッションストーリーでは、特徴的なアイテムに何でもないアイテムを混ぜながら、サイズ感を変えたり、着崩したり、あえてしっかり着てみたりといった絶妙なバランス感覚を見せ、古着や履き慣れたスニーカーを合わせる遊び心あるスタイリングで、レディへという未来志向が絶妙に表現されていた。

ティファニーブルーの地に白抜き文字で「初夏の足音が聴こえる。」とだけ書かれた特集扉の存在は、新生『GINZA』にとってとても大事なものに感じた。詩的とまではいかないけれど、そこには、季節の香りとそれを感じる人の気分がはっきりと含まれている。雑誌を読み進める時、紙の厚みで雑誌の持つ情報量をイメージさせながら、扉はその後に続くいていくトーンを明確に示す。非常に紙的な表現にも思えた。スタイリングはもちろん季節を大切にするという考えは、通奏低音として一冊の中でしっかり鳴っている。冒頭に書いた心地いい風とさわやかさは、この季節感の演出に由来している部分が大きいのかも知れない。

写真は写真としてすっきり明確に見せること。添えるテキストは別のページでしっかり載せる。かなりメリハリは効いている。写真家やスタイリストのクレジットも各ストーリーの最後にまとめられ、先入観なく写真と向き合うように求められる。

カルチャー誌出身の中島前編集長は、カルチャーを切り口として始め、徐々にファッションの本丸へと編集方針を変えてきたけれど、“明日着る服”を紹介するような「口の中にまで入れて」あげるようなわかりやすい表現が求められた状況にあって、「容赦しない」でファッションとカルチャーのミックスや知性を伴うファッション文化のありようを表現し続けた。これまでの『GINZA』が情報量やカルチャーとの文脈が詰まったものであっただけに、リニューアルによってファッションとカルチャーのページがはっきり分かれたように見えるのは、これまでの読者にとっては多少物足りないかもしれない。

ウェブの記事として共有することを前提とした写真とデザインということが背景にあるのかもしれないけれど、情報量が増えすぎないようしながらビジュアルのイメージをシンプルにするという流れは、インスタグラムやWEARなどスマホでファッションを見ることに慣れた世代にとっては馴染み深い。確かに、見やすいという印象は間違いない。ただ、スッキリしすぎたことで、紙版ではページをめくる手の速度が早く、あ、もうおしまいかという感じもある(ストーリーのページネーションはとてもよかったです。)。広告とタイアップページでコンテンツがどんどん増えるならちょうどいいのかもしれないが、読者はそうしたものにますます敏感にはなっている。すっきり読み切るものがいいのか、情報がたくさんあった方がいいのか問題はなかなか難しい。

とはいえ、リニューアルをライフスタイルという言葉に逃げず、正面切ってこれからの女性とファッションを切り口にしたことはとてもいい。好きです。

季節は変わるし、雑誌も生きて変化する。

「『こういうのを私たちはいいと思っているのだけれども、よければ一緒にいかがですか?』と、読者に話しかけ続けたい。」と言う河田編集長の、自分たちが信じるささやかかもしれない、でもそれを信じる強い気持ちが宿っているものを届け続けたい、という静かだけど強く熱い気持ちを、近くで同じ空気を吸うように感じることができた。